2020年はリモートでのユーザー調査が急増した年となりました。リモートでの調査はそれ以前でも時々は実施していたものの、特に理由がなければ対面で、というのが前提にありました。 ところが昨年春以降のプロジェクトについては遠隔での実査が主となりました。
電話やオンライン会議システムごしでのインタビューに切り替える「だけ」で良いプロジェクトもあれば、指定の機器を使ってもらうような対面でないと無理と思われていたテストでも、リモートでの実施が余儀なくされました。
そういったテストの際は、必要機材を揃え参加者に送り、半ば簡易的なリサーチルームを自宅に構えてもらうように参加いただくことが多くなりました。ここまで回数を重ねてきてノウハウ化された手続きの数々を、網羅的にまとめてみようと思います。
もともとは対面での実施を考えていたのに、リモートテストを余儀なくされた例として、2019年末から取り組んでいる、船員向けの操船サポートシステム開発プロジェクトがあります。本来ならば船にプロトタイプを持ちこんでのユーザーテストを予定していたものの、それは出来ない状態に。開発はどんどん進んでいくので、調査を諦めたくはない。工夫をして、リモートで実施できる方法を模索することにしました。 もともとの計画では、船のブリッジにプロトタイプを持ち込み、実際と近い環境で行動観察やインタビューをする計画を立てていました。 現地に行ってこそ得られる内容は、時間を置いて対面で実施できる時まで保留することにして、現時点で実施できる形として、機能に対する印象聴取や、インタフェースの評価に焦点を絞り、アプリ画面の操作とインタビューを実施することに調査内容を調整しました。
リモートでのインタビューでは、Zoomなどのオンライン会議システムを使うことが多いため、参加者のネットワーク環境を予め確認し、準備をすることが重要となります。
場合によっては、Wifiが安定していて、オンライン会議システムの利用経験がある人を優先的に選定していくこともできますが、そうでない場合、参加者がどのような環境で調査に参加するのかを把握した上で必要機材を見極める必要があります。
上記の案件では、自宅・オフィス・船のどこからでも参加できるように、必要な参加者にはモバイル型WifiやSIMフリーのデバイスを用意しました。この学びから、自宅・オフィスからの参加を前提とする他のプロジェクトでも、リクルーティングのタイミングでインターネット環境を確認するようになりました。
上記の案件の例では、タブレットとイヤホン、場合によりモバイル型wifiを同封しました。その他、マイクやカメラ、三脚等、調査により用意するものは様々。リサーチルームで実施するなら1台で十分でしたが、参加人数分必要になるのだから、用意するにも予算を予め見積もっておく必要があります。長期に渡って使うものや細かい機材は購入して、テストごとに必要な機種や数が変わるデバイスはレンタルで手配することが多いです。
アプリ画面の操作を指定のタブレットで行う必要のあるプロジェクトでは、指定のモデルがテスト期間に必要台数揃っているレンタル会社を探し、まずは予約。タブレット等の機材レンタルを初めて行う場合、法人登録のために必要書類が必要だったりするので、予め余裕を持って手続きを進めておきたいところです。
何度か利用するにあたり、レンタルしたい品の在庫がないケースが多々あったので、予約は早めに取ること、またデバイスの指定は広めに決めておくと在庫がなかった時にすぐに対応しやすくなります。
考慮しておきたいのは、万が一返却されなかった場合について。壊れた、紛失したといったことが起こった場合、保障はどうなるか、弁償するならどうなるのか等も把握しておいたほうが良いところです。
Zoom等で音が出ないというトラブルは最近減ったように思うのですが、イヤホンがないと(大げさに言って)2回に1回はハウリングのトラブルに見舞われるという印象があります。音の聞き取りやすさにも大きく影響しますので、やはり、マイク付きのイヤホンは必須としておきたいところ。座って話を聞くときは有線でも良いけど、部屋を歩き回ったりする必要のある調査ではBluetoothイヤホンを用意します。
タブレットのバージョンによっては、イヤホンジャックがないものもあるので要注意。慌ててLightning端子用の変換アダプタを後送したことも。
Bluetoothイヤホンを使用する場合は、デバイスと連携する必要があるので、参加者自身のデバイスと連携してもらう場合は、前もって設定をお願いするか、調査前に別途設定する時間を設けるかは考えておく必要があります。
レンタルしたタブレットは初期設定の状態のため、使うアプリを残して、その他のアプリは初期画面から外しておく等、使いやすいように設定しておきます。
プロトタイピングツールで作成されたアプリを見てもらう、と言った場合、当日になって、なぜかプロトタイピングツールにアクセスできないなんて場合が稀にあります。そうなった時、例えばPDFや動画等を用意してアクセスしやすい場所において置けば、何も見てもらえなかった、という最悪の状態は回避することができます。色々試したけど、ダメだった…という時の手段として、落ち着いて別の手段を指示できるようにしておくと、とても安心です。
送付したデバイスの操作に不慣れな参加者もいるため、モデレーターやノートテイカーは、デバイスの操作方法やUIのラベルを事前に確認し、参加者に適切な指示が出せるように準備することも大事です。例えば、タブレットでZoom画面とブラウザを切り替えてもらう操作は、人によってはどうすれば良いのかわからず困ってしまいます。そうすると、本来見て欲しいアプリを見せる前に操作に不安を感じてしまうので、本題に入る前に気軽な気持ちで一緒に練習をしておく等の時間を設けるとスムーズです。
参加者としては、荷物の受け渡し、機器の配線、Wifi設定など、インタビュー以外にもやることが多いため、それらに協力いただけるのか確認しておきます。指定の期間に受け取りできるか、デバイスの設定などの事前準備に協力していただけるか、また終了後に返却手続きをしてもらえるか。こちらで当たり前と考えていたことが、参加者側では「こんなはずじゃなかった」と驚かれることを避けるため、調査に応募していただく時に確認するようにしています。
必要な機材が揃ったら、発送の手続き。
必要機材を全て揃えることも大事ですが、返却の際にいかに参加者が負担なく手続きしてもらえるかも考えると、スムーズな返却に繋がると思っています。なるべく負担がかからないようにと考えたとき、いつも梱包テープをご用意いただくのが手間だろうから、1回分だけ売っているみたいな商品があればいいなと思うのですが。返却のしやすさを考慮している成果なのか否か、期日までに返却してもらえなかったことは今のところありません。
各所への事前確認と準備、発送作業は思った以上に手間も体力も時間も必要です。一人で抱え込まずペアで担当することをお勧めします。無理のない計画で様々な想定に備えて準備をすれば、インタビューはスムーズに実施でき、ときには返却の際にご挨拶のメモを同封される方もいる程、参加者にも快くご協力いただけると思っています。
2021年 03月 10日