展覧会:観に行きたいと言わせて!

2010年、AQは瀬戸内国際芸術祭東京イラストレーターズ・ソサエティTokyo Art Beatのデジタルコミュニケーション戦略を次のステージへ上げるべくお手伝いをさせていただきました。2011年では、文化事業とともに新たな挑戦にかかる前の武者震いとして、カルチャーに関わる面白いウェブサイト事例を世界中からピックアップしていきます。Twitterもやっています。

昨年の暮れ、RMN、FaberNovelとLes 84 & Orangeが、2011年1月末までパリのグラン・パレ・ナショナル・ギャラリーで開催のモネ2010展ウェブサイトをリリースしました。豊富な内容とFlashを巧みに使った美しいサイトではありましたが、それを見たときに展覧会を観に行きたいという気持ちにはなりませんでした。

そこで、本ウェブサイトを例として見ながら、見込まれるビジターたちの展覧会に対する興味をより高め、彼らに実際に美術館まで足を運んでもらうために、美術館側に一体何が出来るのかを考えてみましょう。

この展覧会のユニークな点とは?

本サイトには2つの主なセクションがあります。まず「ギャラリー」では、1840~1926年に制作された優れた作品150点(4部構成)と15の展覧会ツアーを閲覧出来ます。そして「旅」セクションでは、3D効果を取り入れて動画として生まれ変わった27作品と、12のインタラクションも楽しめます。非常に見応えのある内容で、本サイト訪問は実にユニークな体験となりました。

しかし実際のところ、本サイトはこの絵画の巨匠へのオマージュに過ぎない、という印象を受けました。それはおそらく、サイトの内容が圧倒的に優れている反面、イベントのページで見慣れた基本情報が欠けていたからでしょう。見込まれるビジターの一人として私が期待するのは:

  • 展覧会の概要とそのコンセプト。そして出来れば、本展がこれまでのモネ展とどのように違うのか、なぜ見逃せないのか、などの説明も。
  • 作家のプロフィール。簡単なバージョンに加え、作家の人生や作品などについてより掘り下げた説明も。
  • ジラすべき!全ての詳細を伝えないことで、より強い関心を引き出してほしい。この点においては、「ギャラリー」セクションよりも「旅」セクションのほうが成功だったと言えるでしょう。


どんな展覧会なのか?

「旅」ティーザーは、デジタルメディアによって生まれた好機を活かし、展覧会を上手に紹介していましたが、これにはウェブサイト(オンライン上の体験)と実際の展覧会(美術館への訪問)との結びつきを断ち切ってしまうようなリスクが伴うように思います。

ここで、展覧会に訪れることを検討している人間として、展覧会に関する当然ともいえる疑問がいくつかあります:

展覧会スペースはどんな感じか?
グラン・パレはその建物の構造自体が大変素晴らしく、展覧会の内容に拘わらず訪れる価値ありなのですが、ここで知りたいのは、今回も前に見た展覧会と同じレイアウトなのか、それとも今回はウェブサイトと同じぐらいユニークな空間になっているのか、という点です。

  • サイトやTwitter上で、展覧会スペースの写真を何枚か、継続的に掲載してはどうでしょう?

モネの絵画のスケールは?
個人的に気になるポイントです。印象派の絵画を目の前にして、そのスケールの大きさや一つ一つの筆跡、色彩の美しさに思わず涙を流した経験が多々あります。実物を目にするまでに、オンラインや出版物に掲載された小さい複製ばかりを何度も見た後は特に・・・。

  • 展覧会で実物を目にする前の段階で、ユーザがサイト上の絵画作品にズームインし、その筆跡や色彩を間近に楽しめるような機能を。

展覧会に対するみんなの反応は?
GoogleやTwitterで情報は入手できますが、来館者やジャーナリストのコメント、感想などを提供する場として、展覧会専用のウェブサイトが主導権を持つべきだと考えます。

  • サイト上に「感想」記入フォームを設定する(ここからTwitterにも投稿できる)。サイトURLのRT止まりであることが多いTweetを生で表示するよりも、サイト上で書き込めるフォームを提供するほうが、質の高いコメントが期待できる。
  • Twitter、ブログ、その他のソーシャル・ツールから、面白いコメントを厳選し掲載する。
  • 心のこもったレビューをブログで掲載したり、Twitterで発信する。ウェブサイトのトップページでこういった情報をシェアし、全てのユーザの目に留まるようにする。

展示作品の中で最も人気のある作品はどれか?
サイト上のコンテンツをゆっくりチェックする暇がないこともあります。そんなときでも、展覧会でこれだけは見逃せないという作品がすぐ分かるようであると良いでしょう。

  • それぞれの作品の前で来館者がどれぐらいの時間足を止めているかを追跡し、最も人気のある作品はどれかを視覚化する。こういったツールがあれば、最も効率の良い観賞ルートを決めることも可能になります。混雑しているエリアを割り出すことで、人があまりいないエリアへと促してくれるからです(オンラインと展覧会会場の両方において)。

ローカリゼーションは、翻訳だけではない

何ヶ国語にも翻訳されているウェブサイトはもちろん素晴らしいのですが、翻訳の質が悪いと、却ってウェブサイトの信用に関わってきます。こういったタイプのウェブサイトでは、英訳が充分な時間をかけずに仕上げられたように聞こえたり、ネイティブレベルではないケースがあるのです(いわゆる、「直訳」症候群)。

インターナショナルなスケールでウェブサイトを制作する場合、アーティストがどういったコミュニティでどのような評価を受けているのか、といったことも考慮に入れるべきです。サイトを本当の意味でグローバルなものにするためには、各国がアーティストのどんなことを知っていて、どんなところが好きなのかを知る必要があります。

モネは日本で大変人気があり、パリに行く日本人旅行者はおそらくオランジェリー美術館に足を運ぶことでしょう。彼らは一般のフランス人よりもモネに関する知識が豊富でしょうから、それに見合うだけの、日本人用にカスタマイズされたコンテンツを提供するべきでしょう。

また、来館者のレベルで考えれば、展覧会ウェブサイトとは、モネ作品を初めて目にする人からモネのエキスパートに至るまで、あらゆるユーザ向けの特別なコンテンツを開発するチャンスです。

  • サイトが提供する各言語の国で開催された別のモネ展覧会の担当キュレーターたちをインタビューする。オンラインとグラン・パレを訪れる多種多様なユーザを惹きつける興味深い識見を見出すことができたでしょう。
  • 既にサイト上にある15のヴァーチャル・ツアーに加え、モネの初心者とエキスパート両方のニーズに応えるようなツアーをいくつか提供し、全てのツアーをオンライン上で共有できるようにしたらどうでしょう。


La cerise sur le gâteau

参加型にしよう
ウェブサイトをソーシャルなものにし、またユーザがそのコンテンツに積極的に触れたり推進できるような環境を作るためには、ギャラリー・セクションに掲載された作品の上にTwitterやFacebookの小さなアイコンを置くだけでは足りません。

  • ユーザがサイト上の作品で好きなものを集め、自分だけのギャラリーを作れるようにします。それをソーシャルネットワーク上と共有できるようにすれば、展覧会全体の宣伝になり、また自分のツアーを組むことも可能になります(「ツアー内容を印刷して、展覧会に持参しよう」)。

リアルなものにしよう
モネの自然や都市の風景画は実に美しく、直に見たいものばかりです。

  • モネの風景画に描かれたフランスの実在の場所を、GoogleイメージやGoogleマップにリンクする。
  • 自分の好きなモネの風景画をもとに(または、個人ギャラリーに入れた作品をもとに)、フランスで訪れるべき場所を提案する「旅計画セクション」を作る。また、それをエール・フランスの旅行キャンペーン特別サイトと一体化させるという方法もアリですね。

読み込み時間は短く
トップページにおける容量の大きいFlashの映像の読み込み時間は、20秒以下で押さえたいものです。東京から光ファイバー通信を介してロードするのに2分もかかってしまうのは、よっぼどモネの大ファンか、美しいサイトをブラウズするためなら気長に待てるというウェブデザイナーでない限り、やる気がなくなってしまいます。

再訪問しやすくしよう
例えば、旅セクション。盛りだくさんで美しいフ機能ですが、ロードするのに重過ぎます。

  • 途中で再起動できるように、また、正確なリンクを友人に送信できるようにしましょう。

最後に

モネ2010ウェブサイトの旅セクションの最後に、アンケートがありました。

以下は、10問目に対する私の答えです。

10) 旅セクションについて、友だちと話したとしましょう。「1 = 全く思わない」から「6 = 完全に同感だ」の間の数字を選んでください。
• モネ絵画を美しく紹介していると思う [5/6]
• 使い易いウェブサイトだ [4/6]
• この「旅」は、作品に対する特別な識見を提供してくれた [1/6]
• ユニークな経験だった。こんなフィーチャーは今まで見たことがない [3/6]
• 「旅」のおかげで、モネについていろいろ学ぶことができた [1/6]

全てのイベント・オーガナイザは、展覧会に関するオンライン体験を作り上げる上で、次に掲げる4つの挑戦に取り組むべきだと考えます。

  • 展覧会に実際足を運んでもらえるよう、サイトの訪問者を納得させる。
  • さまざまなタイプの見込み来館者に対処する方法を、それぞれ編み出す。
  • ウェブならではの方法で、ユーザがサイト上のコンテンツに積極的に触れるよう促す。
  • 来館者が、展覧会を彼らの友だちに薦めてくれるようにサポートする。