欧文書体の今を知る Vol.4 : Galaxie Polaris by Chester and Tracy Jenkins

日本人デザイナーにとって、時に欧文書体の選択は難しいものです。書体の持つ、微妙なニュアンスや文化的背景が掴みにくく、「Helvetica」や「Garamond」といった古い付き合いの書体から離れられなかったり、真意とは異なる意味を含む書体を選んでしまったりするのです。

ところで、毎年何千もの欧文書体がリリースされていることをご存知ですか。このシリーズでは、現代の世界中のタイプデザイナーによってつくられた、上質かつ多様に使える優れた書体をご紹介していきます。

どのような人が、何を思ってこれらの書体をデザインしたのか、知りたいと思いませんか。

Galaxie Polarisの各ウェイト

Galaxie Polaris (2004, 2005)

Chester Jenkins & Tracy Jenkins, Village
ニューヨーク

ポイント
  • ヘルベチカの代わりとなる。
  • 非常に整っていてシンプルなので、日本語のフォントともうまく組み合わせることができる。

この書体を作るにあたってのインスピレーションは何でしたか?

トレイシーがイエール大学の大学院でデザインプログラムに在籍していたときに、卒業制作に使う書体を探していました。彼女の作品はモダニズムの伝統に則ったもので、クリーンな形状で、言語とイメージに着目したものでしたね。「Univers」「Helvetica」「Akzidenz-Grotesk」などのよくあるいつもの書体に取り組むよりは、形状はニュートラルだけれども、個性が一切無いわけでもない書体ファミリーを求めていたんです。彼女が編集者・ディレクターのような役回りで、私がこの書体を制作ました。

San Fransisco Ballet logo in Didot and Galaxie Polaris

プロジェクト:San Fransisco Balletのアイデンテティ デザイン:MetaDesign

それでは、「Univers」「Helvetica」「Akzidenz-Grotesk」などは比較的、個性的ではないと思いますか?

「Akzidenz-Grotesk」はいい意味でとてもファンキーだと思うよ。19世紀に特有のやや唐突なプロポーションと細部のデザインを持っているところが。「Helvetica(1957)」や特に「Univers(1956)」は、ご存知のように、デザインの趣旨からも意図的にモダニスティックでニュートラルな書体です。「Akzidenz-Grotesk(1896)」が生まれたのは、モダニズムとほぼ同時代で、「国際様式(インターナショナルスタイル)」がモダニズムの顔になる半世紀も前なのですから。

「Galaxie Polaris」がニュートラルでそれほど個性的ではないことにとても満足しています。

プロジェクト:Glenn Ligon — Some Changes(アーティストのモノグラフ) デザイン:2x4

21世紀の「Galaxie Polaris」のような書体は、「Helvetica」のような20世紀の書体に比べて、21世紀のデザインの課題により適していると思いますか? それらの古いフォントは、モニターなど、当時のデザイナーが思いもよらなかったメディア上ではどうでしょうか?

「Galaxie Polaris」がモニター用に最適化されているとはいえません。ソフトウェアとハードウェアの両方が上手く働くことで書体がモニターでうまく見えるのだと思います。

「Galaxie Polaris」が21世紀の書体である限り、これはとても面白い考え方ですね。よく言われるように、新しいタイポグラフィーは新しい書体を必要とします。「Galaxie Polaris」は21世紀に、21世紀のテクノロジーで使われるために、21世紀的な関心や興味を持ったデザイナーによってデザインされたわけですから、以前の書体に比べて、今日の用途により適しているといえるとは思います。(ただし、このようなことを自分で言うのはあまり好きではありませんが。)


プロジェクト:Columbia Business Schoolのアイデンテティ デザイン:Pentagram New York, Michael Bierut’s group

あなたのウェブサイトによると、将来にわたって世に送り出していく書体ファミリーの起点が「Galaxie Polaris」とのことですよね。しかし、2つ目の「Galaxie Cassiopeia」は少なくとも表面的には大きく違った感じがします。Galaxieファミリーの今後の筋書きの予定はありますか? どのように統一されていくのでしょうか?

以前に制作したApexファミリーような、スタイルとして関係のある書体シリーズを創り出すかわりに、「Galaxie」では、共に使用しても機能する書体シリーズをデザインしようとしています。同じエックスハイトとウェイトを続けていくつもりです。Polarisとはつまり「極の星」であり、すべてのGalaxie書体が続く起点になります。

最初に「Galaxie Cassiopeia」のボールドだけがリリースされました。デザインするのにとても長くかかったため、まずはボールドだけリリースして、他のプロジェクトをやって、また後で戻って他のウェイトをデザインすることにしました。

スラブセリフ体と、もう1つセリフ体のデザインを始めました。

「Galaxie Polaris 」の理想的な使い方はどのようなものですか?

おお! これは仰々しい質問ですね。しかし、情報を伝達するのに最適な書体だと思います。長い文章や、標識、ロゴなどに使われています。この書体はシンプルでうるさくない書体なので、Villageでも文房具や、注文書などに使っています。

Galaxie Polarisの「インテロバング」

「Galaxie Polaris」で一番気に入っている文字はどれですか?

左図の感嘆修辞疑問符(インテロバング)ですかね。特に深い理由はありません。あまり使われない標準外の符号ですが、ユニコードのインデックスを持っています。スマイル符号のように、60年代に広告マンによって感嘆修辞疑問符は創り出されました。この符号は疑問符と感嘆符を組み合わせられており、その両方の符号が同時に必要な驚きを表現するために使われます。

Polarisがまじめで、個性が強くない書体にデザインされているわけですから、このような瑣末な記号的なものを含むのは少し不謹慎ではありました。でも、この記号こそが、ある有名なデザイナーがこの書体を選択する最終的な決め手となりました。

好きな書体はありますか?

好きな書体というよりは、全作品が大好きなデザイナーがいます。Gerard
Unger
を深く尊敬しており、彼の書体がいかに機能的か、「Swift」の三角形のセリフが、続いていくテキストの中でいかに素晴らしいかということに感動します。また、彼の書体の中でも「Argo」、「Capitolum」、「Gulliver」を特にすばらしいと思います。彼の全作品のまとまり、すべての作品において彼のコンセプト、形状のアプローチがいかに明確であるかということに敬服します。

他に尊敬するデザイナーを挙げると、Matthew CarterLetterrorZuzana Licko、そしてVillageの同僚達ですね。

翻訳:藤高晃右

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2007年 08月 13日