モバイルアプリの利用分析ツールのマーケティングページとプロダクトのリデザイン
AQは、国内のスタートアップ Repro と協働し、プロダクト開発に取り組む姿勢を機能起点からユーザ起点へとシフトさせることにより、コンバージョン率とリテンション率の上昇を実現しました。
Reproは、モバイルアプリケーション開発において、ユーザの利用状況を的確に把握し、機能改善の判断材料を提供する分析ツールです。当ツールは、ユーザが実際に見ている画面と一連の操作を同時に記録することで、アプリがどのように使用されているかを逐次明示化します。
Reproからお声がかかったのは、彼らがシリーズAの投資段階で資金を募っているときでした。その頃、彼らは様々な方面から意見や要求を受け、煮詰まっていました。ユーザや営業スタッフから上がってくる機能要求はもちろん、競合他者との比較から生じる投資家や法人パートナーの意見もたくさん出てきます。Reproがこうした「ノイズ」を一旦遮断し、ユーザのニーズに基づく明確なメッセージとプロダクトの成長戦略を提示せねばならないことは明らかでした。
AQが参画したのはこの時期です。初めて出会ったのは2014年。きっかけは、わたしたちがUXデザインメンターとして関わっているOrange Fab Asiaのアクセラレータプログラムでした。国際市場への本格展開を目論んでいたReproの代表・平田祐介氏は、AQが誇るプロダクトデザインのスキルを求めて、弊社のメンバーを向かい入れました。
グローバル市場を狙う日本のスタートアップとして、Reproは日本国内のみならず国外のユーザニーズをも理解し、最適なプロダクトとメッセージを提供しなければなりません。グローバルなプロダクト開発に10年以上携わってきた私たちは、ユーザが抱える根本的な問題にフォーカスすることにより、Reproがより価値のあるサービスを作っていけると確信していました。
まず着手したのは、ビジュアル・アイデンティティとマーケティングページのリデザイン。続いて初回ユーザの利用体験を練り直してから、コア機能のUXデザイン全般を整備する、という順番でプロジェクトを進めていきました。
最初に、本当のユーザは誰なのか、彼らが直面している課題、そして解決に際する意思決定の過程を洗い出しました。
第一弾の既存ユーザはReproメンバーの友人知人が多く、プロダクトの初接触と言えば、面と向かってメンバーから直接説明を受ける、というものでした。そんななか、ユーザが増えるにつれて「他人」の割合が増し、彼らの潜在ニーズを的確に把握することが難しくなっていきました。Reproと何の繋がりも持たずマーケティングページで初めてプロダクトを知るようなユーザにアプローチする必要がありました。
ここでは、AQが培ってきたネットワークが活躍しました。これまで出会ってきた世界中の剛腕プロダクトマネージャたちにインタビューを依頼し、彼らのチームがどのように分析ツールを評価・導入してきたのか、その経緯についてリサーチをしたのです。
「AQは、マーケティングとプロダクトのデザインを、同じ体験の両面を構成する要素として見ています。ユーザの多くはランディングページで初めてプロダクトを目にします。そこで印象付けられるプロダクトの価値と利用への期待というのは、普段使いされるようになっても根強く残るものです。」- マチュー
どんなに手強いプロダクトマネージャでも、彼らの心に響くメッセージは「Reproを導入すれば、ユーザ行動に関する難問を紐解き、自信を持ってプロダクトの意思決定ができる」であることが一番の発見でした。また、チーム全体を巻き込んで予算承認を取れることが大事で、そのためにはエンジニアが率先して技術検証できる環境が準備されているのが鍵であることがわかりました。
この発見によって、Reproのプロダクト開発は、一部の個人を念頭に置いた既存機能の改善から、顧客であるプロダクトチーム全体を対象とした価値創造へと変わっていったのです。
Reproチームと行った初めてのワークショップでは、ユーザインタビューから割り出した「プロダクトチームを構成するペルソナ3名」を紹介しました。彼らがどのような経緯でサイトを訪れ、それぞれの立場から理解する価値とは何か。各機能の説明文が長々と続く既存ページは白紙に戻し、プロダクトチームに響くReproからの明確なメッセージをゼロから設計していきました。
リデザインはライアンの指揮の下で進み、数回のイテレーションを経て、最初のユーザリサーチに参加したプロダクトマネージャが検証した新たなマーケティングページが出来上がりました。シリーズA投資の調達アナウンスという絶妙なタイミング。幅広い訪問者の波を受け入れるなか、2.5倍のコンバージョン率という結果を出すことができました。
これはとても嬉しい数値ですが、同等に注目すべきなのは、Reproチームの意識の変化です。AQメンバーがいないときでも、ユーザであるプロダクトチームをどうやってサポートできるか、という会話が社内で日常的に行われるようになったとお伺いしています。
「新サービスの開発をしていると、サービスのすべてを売り込みたいと思ってしまうものですが、誰がサイトを訪れ、どのように利用されているかを最優先に考えるべきであるとAQから学びました。AQが優れていると思ったのは、余分なものは大胆に削ぎ落として、サービスを購入してもらう際に説得力を持つストーリーに焦点を絞ったことです。」−Repro代表・平田祐介さん
次に乗り出したのは、プロダクトそのものの改善です。
当時のプロダクト開発は、ヘビーユーザが抱えるユーザビリティの課題解決を優先していました。しかし、より大事なのは新規ユーザが最初の数週間でいかにアプリを使い倒せるようになるか、です。Reproの価値が評価される大事な時期に、ユーザビリティの細かい改善がされても、リテンション率には大きく貢献しません。
実際のユーザにインタビューしたところ、機能の一部しか使っていない人が多く、その価値が十分に伝わっていなかったり、存在自体に気づいていなかったりするのが原因であることが分かりました。
そこでReproのリテンションファネルを検証し、ユーザがプロダクトに価値を見出す「関門」を5つ特定しました。長期使用につながるタイミングです。ほとんどのユーザが5つのうち、1−2つにしか達していないことが分かりました。
私たちの役目は、ユーザがどの段階でプロダクトに魅せられるのか、そして彼らが見逃しているものは何かを探し出し、そこからReproが持つ価値の全体像を映し出す「関門」へと導いてあげることでした。
まず、イベントのタグ付け機能に着手しました。ビデオ機能は既に人気機能でしたが、ユーザの多くはビデオの中で要となるユーザアクション(イベント)にタグ付けが出来ることを知りませんでした。記録動画を映画に例えると、ユーザはディレクターズ版を最初から最後まで辛抱強く見ていかなければいけない状態です。その長い行程で取られたアクションの1つ1つは、言わば映画のハイライトであり、実際はその部分だけを見られれば事足りたというわけです。そこで、イベントタグ付けの作動方法と、この機能を使うことによって得られる価値をコンテキストとして誘導するUIを設計しました。
また、アプリを使い始めるためのステップを分かりやすく整理し、プロダクトマネージャが途中で挫けずに全てのステップを完了できるよう、それぞれのステップにReproを使用するメリットがあることを明示しました。
リリース後、マーケティング・ページのコンバージョン率は3倍近くまで上昇し、アプリケーションに搭載された多くの機能の利用率も増加を見せました。また、協業を通じて、Reproは顧客重視の意思決定を下すチームへと変化を遂げました。その後、元々6人で構成されていたReproチームは15人へと拡大し、デザインチームも新たに設けられました。彼らは今、シリーズB投資の段階に入ろうとしています。
Reproとの共同作業は、隔週で行われました。限られた時間の中、全力疾走で実施した設計ミーティングは毎回、前回からの2週間で行ったリサーチの成果、そこから得たアイデア等をシェアすることで始まりました。まずUXに関する問題を書き出し、それを基に仮設計を作り、UIのコピーを描きました。時間のかかるメールのやりとりやドキュメンテーションは極力減らし、打ち合わせ中にできるだけ多くの意思決定をして行きました。両チームのメンバーが同じ部屋で設計に取り掛かることで、その全員が次に何をすべきか、なぜしなければならないかを、確実に把握できたのです。
「我々の仕事は高速で変化し続けるので、そのスピードについて来られるデザイン・パートナーを見つけるのは至難の技だと思っていました。限られた時間の中でプロダクトの品質向上を目指すAQの弛まぬ献身には驚かされました。」−Repro代表・平田祐介