ウェブアプリのアクセシビリティ改善
2022年春先、株式会社メルカリは全プラットフォームのリファクタリングという壮大なプロジェクトの一貫として、ウェブアプリのWCAG 2.0 レベル「AA」準拠に向けたアクセシビリティ改善に力を入れていました。
自動テストはしていたものの、担当チームは視覚障がい者や運動機能障がい者の方々が実際のユーザとしてサイトを使っている場面に出くわしたことがなく、どこまで出来ているかの確証はない状態でした。そこで、ロードマップ策定のインプットとして、そして今後のアクセシビリティ対策に向けて知見を貯めていくためにインデプス調査を行った方がいい、プロダクトオーナーの小林悟史さんが動き出しました。
以前にも同ウェブアプリのデザインシステム構築に携わっていたためプロダクト知識があり、社内のリサーチチームが有るということで、AQにお声掛けいただきました。
AQとは以前に別プロジェクトでウェブアプリのデザインシステムに関わって頂いたことで、弊社のサービスやウェブアプリに精通していたこともありますが、今回お願いさせて頂いた1番の要因は、アクセシビリティのスタディーは通常のユーザービリティスタディーよりもより詳細な設定が必要となることから、過去の実績にて豊富な知識を蓄積されており、信頼できるパートナーであることから今回お願いさせて頂きました。ー プロダクトオーナー小林悟史氏
AQはアクセシビリティの専門知識を持つRARE TEKT株式会社の上野裕樹氏とタッグを組み、メルカリ社側からはプロダクトマネージャー、デザインシステム担当のデザイナー、フロントエンドとバックエンドのエンジニアが集まり、手探り状態から本プロジェクトに挑みました。
本調査の対象としては、高齢者かつ視覚障害者、視覚障がい者、指・腕における運動機能障がい者という条件で探し、最終的には計6名にご協力いただきました。
リクルーティングは難航するだろうと踏んでいたものの、想定していた以上に難しく、自宅訪問は断念。Zoom越しで参加者の方々にスクリーンリーダーやスマホを操作する様子を見せていただきながら、遠隔でインタビューを行っていきました。時には電気を付けていただいたり、時には同居者に撮影協力を依頼しながら進めていきます。
(スクリーンリーダがメルカリを読み上げながら、サイトを操作している動画です。音声付きでご覧ください)
エキスパートレビューとインタビューの両調査が終わったあと、全メンバーでワークショップを行いました。AQが日英で書き上げた調査レポートに対してメンバーが議論をし、How Might We形式で改善のオポチュニティを特定していきました。
これまで自分たちが施していたUI改善を参加者の方が気づいていたり、障がいを持たないユーザにとっても良い効果が出るポイントなど、今後の動機付けにつながる発見はたくさんあります。技術的な話しから組織としてのマインドセットや必要なリソースまで、話し合いは多岐に渡りました。
プロジェクト中、メンバーは意欲的に勉強を進めつつ、上がってくる課題に対してどんどん修正をかけていました。やはり自動テストでキャッチできていた課題は限られていて、エキスパートレビューの段階でも色々発見がありました。「実際に使ってみてもらっている場を見ないと分からない」という感覚は当たっていたのです。
本調査を通して予想よりも視覚障害を持たれた方が、与えられたタスクを達成するのに時間を用いたり途中で諦めてしまうのを目の当たりし、ショックでした。特にスクリーンリーダーを用いてメルカリを使って頂くのに大くの課題を発見し、普段からサービスを提供していく一人一人がアクセシビリティに対する意識を高めていく必要性を感じました。ー プロダクトオーナー小林悟史氏
この調査がアクセシビリティ向上への継続的な取り組みにつながるよう、AQは文献を紹介したり組織のUX成熟モデルを使って議論をサポート。
本プロジェクトでは現状把握に加えて、以下のような成果を上げることとなりました:
これだけのユーザ数を抱えるサービスが動くと、やはり同じ業界で活動する者としては期待が高まります。また、デザイナー・リサーチャーとしては、アクセシビリティ対応をしているとユーザから確実に評価されることを実感できたのは大事な経験でした。より積極的に実績を積む機会を追求しよう、と社内で動き始めるきっかけとなった本プロジェクトに感謝しています。