未来の操船は、もっと自由に、もっと安全になる
自律運航に関連する優れた技術力を持つグローク・テクノロジーズ社(Groke)は、より自由で安全な船舶の運航を支援することを目的として設立されたフィンランドのテック企業です。
Grokeの最初の目標は、三菱商事と組んで日本市場にサービスを提供することでした。
状況認識システムの構築に向けて、AQはデザインやリサーチのパートナーとして、Grokeと契約をしたのが2019年。まずはファンデーショナルリサーチを行ったあと、コンセプトを設計し、製品の価値にさらに磨きをかけるため、顧客を対象としたユーザー調査を実施しました。AQ内のプロジェクトチームはGrokeのソフトウェアチームの一部となり、デザインの方向性を定め、UIをデザインし、営業活動やマーケティング活動に至るまで、幅広くサポートしました。
Grokeの共同創業者であり、カスタマーソリューション&コンセプト担当副社長のIiro Lindborg氏は、私達について次のように述べています。
「検討した10社のうち、AQは多くの理由で際立っていました。当初から私たちのアイデアや考え方が一致し、このコラボレーションが両社にとって有益であるという確信を得ました。」
乗組員が置かれている環境を基礎から理解するべく、AQのチームはのべ数日間を現場で過ごしました。広島から福岡へ向かう貨物船に乗り込んで実際に夜の見張り業務を体験したり、タンカーやタグボートにも乗船し、さまざまな船員の様子を観察し、学びを得てきました。
乗組員の業務内容や船上生活を観察・体験することで、目的地まで安全に航行するために何が重要なのか、どのような課題に取り組んでいるのかなど、貴重な洞察を得ました。
状況認識システムは、船舶の周囲で起こっている事象を監視するためのものです。船舶の目であり、センサーデータとの組み合わせによって、船舶の周囲にある静的・動的なすべての物体を検出します。
Grokeは、双眼鏡による目視確認に頼っている乗組員のために、ナイトモードを内蔵した画角225°の独自のカメラを開発しました。このカメラと他のセンサーデータを組み合わせることでより優れた視界を提供し、安全でスマートな航行のための判断を乗組員が下せるようにサポートします。
システムでは、これらの情報をカメラ映像に重ね合わせ、距離や速度などを乗組員に提示し、脅威になり得る対象物を追跡する機能を実現します。
乗組員は紙の海図、ログブック、そしてレーダーやECDISなどのデジタルシステムといった様々なナビゲーションツールを頼りに航行しています。デザインする際、このような既存のインプットをどう補完するかを考慮する必要がありました。
船内では、ブリッジの窓から周囲を確認したり、海図を見たり、各種デバイスをチェックしたりと、乗組員は動き回っています。そのため、私たちはタブレット端末上で動く状況認識システムを開発することにしました。
タブレットは乗組員間で持ち回せるため、全員が同じ情報にアクセスすることが出来ます。乗組員調査では、船員の階級や役職による上下関係に起因する課題を何回も耳にしました。例えば、「立場が上に人には質問しづらい」一方で、「懸念をそのままにしておくのは危険を招く」などです。
ツールの設計次第では、ブリッジでの乗組員のコミュニケーションと意思決定能力を高め、指揮系統を尊重しつつも会話に流動性をもたせることが出来ます。
ここ30年間、海運業界におけるナビゲーション技術は大きなアップグレードが行われていません。船上の機器を見れば分かる通り、乗組員が個人で使っているスマートフォンとの間にはデザインに大きなギャップがあります。
Grokeには目指したいルックスがあったので、私達はパートナーの Alvaro Arregui 氏と共に以下の性質を含むビジュアルランゲージを開発しました。
乗組員は視界が悪い中、レーダーやAIS、他船のライトに頼りながら夜通し航海を進めます。夜間は少し明るいだけでも接近してくる船舶を発見するのが難しくなります。ブリッジに置く機器の画面はできるだけ光を出さず、かつひと目で視認できるようになっている必要があります。
タブレット端末からの余分な光を抑えるため、ダークカラーのインターフェースを採用し、視認性を確保するために色のコントラストにもこだわりました。また、端末自体も低ワット仕様のものを選びました。
状況認識システムは使いやすいこと、特に船の輻輳エリアでの「ミスタップ」を防ぐことができるように設計されました。また操作方法は現在使用している機器や乗組員が慣れ親しんでいる技術からヒントを得て、身近で直感的なジェスチャー操作ができるように努めました。
ブリッジにいる間、乗組員は通常、海図の確認、双眼鏡での見張り作業などに追われています。そこで、視覚に頼らないシステムを開発するため、音による通知に着目しました。
ブリッジに置かれている他の航海機器には、危険な状況を警告するためのアラート音が設定されています。しかし、リサーチの結果、アラートが頻繁に鳴るのは煩わしく、鳴らないように設定されていることも多いことがわかりました。そこで、わたしたちは騒々しいブリッジで聞こえる一連の音をデザインすることで、心地よさと注意喚起のタイミングをバランス良く両立させることを目指しました。
Grokeとのコラボレーションでユニークな点は、製品設計プロセスにエンドユーザーから継続的にフィードバックを得られる機会を組み込んでいることです。普段、両チームは東京(AQ)とフィンランドのトゥルク(Groke)の快適なオフィス環境で仕事をしています。しかし様々な天候、そして衝突の危険性にさらされた狭い船内のためにデザインをしていることを忘れてはいけません。
わたしたち日本のリサーチャーは、船長や主要な乗組員に対して、2年以上前からリサーチを続けてきました。コロナ禍でもリサーチは継続していましたが、乗組員に直接会うことはできなくなったため、新しいリサーチ方法を開発しました。一例として、インタビュー参加者の自宅やオフィスにテスト環境をなるべく効率的かつ確実に届けるための運用フローを構築しました。
継続的なリサーチを通じて、わたしたちは相当な専門知識を身につけることができました。乗組員らの声がデザインプロセスの一部となり、日々の議論に現場からのフィードバックが自然と盛り込まれるようになります。
また、Grokeのビジネスメンバーとも密接に連携し、リサーチが顧客との関係強化につながるための戦略的な役割を果たすようにしています。
「世界的なパンデミックにより、もう1年半も顔を合わせていませんが、AQとのコラボレーションは本当にエキサイティングであり、効率的に仕事を進めることが出来ました。バーチャルツールを効率的に使うことで、AQとは実り多い共同作業が出来ました。」(Iiro Lindborg、Grokeの共同設立者兼カスタマーソリューション&コンセプト担当副社長)
状況認識システムは現在、フィンラドと日本でパイロットテストが行われており、今後数ヶ月の間に大規模なローンチに向けて準備が進められています。
2021年11月発行
Groke Technology社に感謝を込めて。
GROKE©のワードマークおよびロゴは、Groke Technologies Oyが所有する登録商標です。