日本人デザイナーにとって、時に欧文書体の選択は難しいものです。書体の持つ、微妙なニュアンスや文化的背景が掴みにくく、「Helvetica」や「Garamond」といった古い付き合いの書体から離れられなかったり、真意とは異なる意味を含む書体を選んでしまったりするのです。
ところで、毎年何千もの欧文書体がリリースされていることをご存知ですか。このシリーズでは、現代の世界中のタイプデザイナーによってつくられた、上質かつ多様に使える優れた書体をご紹介していきます。
どのような人が、何を思ってこれらの書体をデザインしたのか、知りたいと思いませんか。
Jenny (2005, 2006)
Kai Oetzbach, Natascha Dell
Fontfarm
ドイツ、アーヘン
ポイント
- 大きく使うとユニークにみえる書体だが、本文用としても読みやすいので使いやすい。
- 細い線を使っていないので、モニター上でも可読性のいいセリフ体。
- しっかりとした中にも遊び心のある雰囲気。
この書体を作るにあたってのインスピレーションは何でしたか?
通常皆さんがよく想像するような、あるコンセプトを背景にJennyのデザインがはじまったわけではないんです。他のことなんかを考えているときに、なんとなくはじまったプロジェクトです。もし、そこに始まりのアイデアのようなものがあるとすれば、「Jenson Antiqua」という古いルネッサンスの書体の細部を見つめていることからはじまり、そして、それらの細部からインスピレーションを得て、ヘッドライン的な書体、もしくは楽しい書体をデザインしようとしました。そういう訳で、Jennyの初期のスケッチはユニークなラフな形でした。
ある日、その書体を小さく組んでみたところ、予想だにせずとても読みやすいことに気がつきました。そこから新しい真剣なプロジェクトがはじまったのです。古い「Jenson Antiqua」を見直し、ペンストロークに由来する形状と強すぎる細部のデザインを改め、よりコンテポラリーな形状の書体をデザインしようとしたのです。文章として組むと読みやすく、大きいのサイズでは元気でセクシーな書体です。
元々ローマン体とイタリック体は別々に使われていました。最近になって一緒に使われ始め、書体ファミリーの中でもペアとして扱われるようになりました。そんな現在でも、イタリック体とローマン体をデザインするのは全然違ったチャレンジかと思います。Jennyのイタリック体とローマン体が統一された印象を持つように、どのような注意をしてデザインしましたか?
イタリック体とローマン体は平行してデザインされました。ローマン体の形式上の細部と特性に注目し、それらを修正することで、構成的な書体というよりは手書きの書体になるようにしました。また、イタリック体は自立した書体ですが、ローマン体と多くの形式上の類似点があると思います。
「Jenny」の理想的な使い方はどのようなものですか?
必要に応じて、見出し用と、本文用の両方に使えると思います。本のデザイン、雑誌、新聞のデザイン、その他、多量の文章が必要などんなメディアでも使えます。デザイナーのコンセプト次第では、各文字の形状の強さとすばらしい読みやすさというJennyの2つの特性の片方もしくは両方を、際立たせることができると思います。
「Jenny」で一番気に入っている文字はどれですか?
難しいですね。というのも、私達は各文字が作り出す余白の形に注意を払ってデザインしたんです。だから、代わりに、気に入っている文字の組み合わせを挙げます。age、cas、 ftx、cyなどですね。
好きな書体はありますか? もしくはあなたに強く影響を与えているものは? またそれはどうしてですか?
「Jenny」のデザインに影響を与えたわけではないですが、私達がとても好きな古い書体をあげます。
翻訳:藤高晃右