編集:三橋ゆか里

ファーストラン体験のギブアンドテイクを設計する:My ASICSの事例」に続き、My ASICSのファーストラン再設計の事例を通して、フォームのUXデザインという奥深い世界をさらに探索します。

My ASICSは、マラソンに向けたトレーニングを支援するサービスです。カスタマイズされたトレーニングプラン、ダイアリー、記録分析を主な機能とし、効果的なトレーニング方法に関するアシックススポーツ工学研究所の研究成果が集約されています。

ファーストラン再設計の4ヶ月後、以下のような成果が出ています:

  • サインアップのコンバージョン率が50%アップ
  • サインアップ後の最初の一ヶ月間におけるエンゲージメント率が30%から70%へ

ウェブアプリ・iOSアプリ・Androidアプリがあります

My ASICSでは最初に、次のレースや目標タイムなど7つの質問に対するデータ入力を求めます。ユーザにとっては結構労力のかかる作業ですが、My ASICSの価値はカスタマイズされたトレーニングプランにあるため、その価値を最大限に感じてもらうために必要であると考えます。ではそれを踏まえて、的確で無駄のないフォームを作るにはどうすればいいのでしょうか。設計フェーズで問うべき5つの質問を、具体例を交えてご紹介します。

フォームの項目を最適化するための5つの質問

Q1. 良い体験を提供するために、サービスが知る必要のある最低限な情報とは?

ユーザが満足する価値を提供するために必要な情報は何なのか。

My ASICSがユーザに提供するのは、カスタマイズされたトレーニングプランです。このプランの善し悪しがサービスのユーザ満足度に直接つながります。あくまでそこに集中し、サービス提供側が何となく興味があるという理由だけで聞いていた「トレーニングをするモチベーションは何ですか?」といった、プランの生成に影響がない質問を外しました1

Q2. それは、本当に「今」聞くべき質問なのか?

また、あらゆるサービスが、ユーザにTwitterやFacebook連携を求めています。でも、それをサインアップ時は行う必要が本当にあるのでしょうか?

My ASICSには、プロフィールを公開したり、トレーニングの様子をFacebookへ自動投稿するソーシャル機能がいくつかあります。しかし、アカウント作成時には、SNS連携を求めたり、名前やプロフィール写真の登録もありません。なぜなら、My ASICSのランナーにとって、ランニングがソーシャルな活動ではなく個人的なものであることが分かっていたからです。

Q3. 推測してもいいことを質問していないか?

サービス提供者がユーザの答えを推測しても安全である質問があります。例えばMy ASICSの登録時、あなたは35歳でしょうと推測することは何の根拠もなく無責任です。でも、既存ユーザが走る平均頻度を参考に、あなたも週3回走るでしょうと推測することは可能かもしれません。推測することで初回登録時の手間を省き、必要に応じて後から修正してもらえばいいのです。

Q4. そもそも、質問の形をとる必要はあるのか?

以前は、My ASICSには「走る余裕があるのは何曜日ですか?」という質問がありました。(週一の頻度で行うロングランの曜日を決めるためです。)その時々で、忙しさが異なる可能性があるためパッと答えにくく、何のための質問なのか疑問に思うかもしれません。そこで最初の登録からこの質問を外し、代わりに、完成したカレンダー式のプランを左右に丸ごと動かせるようにすることで対処しました。質問するのではなく、後から調整できる機能として提供したのです。

Q5. 質問と選択肢は正しいメッセージを主張しているか?

ユーザに対する質問の一つ一つは、サービス提供者による「主張」です。その質問(そしてチェックボックスやドロップダウンのある場合は、選択肢とそのデフォルト値)が、私たちにとって大切である、と宣言することなのです。My ASICSのプラン作成の最初の質問は、「レースを選択してください」です。これはASICSのターゲットが、健康や美容のために走るランナーというより、マラソン大会などの目標を持って走る人であるという主張です。

左のフォームに入力すると、右のようなトレーニングプランが作成されます。

同様に、トレーニングプラン作成後のページでは走る頻度の調整ができます。選択できる頻度は、週に2、3、4回のみ。週に2〜4回で十分な走りができて、4回以上走ると怪我にもつながるというASICSの考えを表現しています。ユーザに対する質問が、主張したいメッセージになっているかを確認しましょう。

Q2のソーシャル機能についても、ファーストランの一貫としてユーザにアカウント連携を求めないのは、ASICSにとってランニングがソーシャルな活動であるという誤った主張になるからです。ソーシャルな要素は、後から選んで追加できるようにしています。

いかがでしたか。あなたのフォームには、興味本位で聞いてしまっている質問、推測するリスクの低い質問が紛れていませんか。今回ご紹介したティップスを参考に、自社サービスやアプリのフォームを見直してみてください。一人のユーザに対して、ファーストランはたった一度限りのチャンスです。ここで、サービスがそもそも利用されるのか、更には継続して利用されるかどうかが決まります。人と会う時に第一印象を大切にするように、サービスのファーストラン設計も大切にしましょう!

脚注:

1. もちろん、まだサービスや製品のターゲットを見定めているような段階においては、こうした質問にも意味があるかもしれません。My ASICSでは、今は除外されているモチベーションに関する質問のおかげで、ユーザのモチベーションがマラソン大会であることが判明しました。アンケート要素が強い質問が必要になる場合もありますが、適切なタイミングで見直しましょう。

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