編集:三橋ゆか里
イラストレーション:江藤達史

舞台や演奏で、型にとらわれることなく、その場で作り上げていく即興(インプロ)。そんな即興とブレインストームは実は似ています。それに気づかせてくれたある一冊の本を、AQのチームに共有したことでより実りあるブレインストームができるようになりました。

その本は、コメディアンで脚本家のTina Feyの自伝エッセー「Bossypants」です。2008年のアメリカ大統領選挙の際に、共和党副大統領候補Sarah Palin氏の物まねで大注目されましたが、当時YouTubeなどで見ていた方も多いかと思います。

今回は、“The Rules of Improvisation That Will Change Your Life and Reduce Belly Fat”(訳すと、「あなたの人生を変え、メタボ腹を小さくする即興のルール)という章節から、彼女の言葉を引用しながら、即興から学ぶブレインストームの進め方についてご紹介します。

即興の最初のルールは、まず同意すること。

コメディの舞台などで幾度となく即興のパフォーマンスをしてきたTina。彼女がまず大事だと話す即興のルールは、前提となる状況に同意すること。こんな風に説明しています。

常に同意し、YESと言うこと。即興しているとき、パートナーがつくった状況に必ず同意する。例えば、「動くな、銃を持っている」と私が言った場合。あなたが「それ銃じゃないじゃん、ただの指じゃん…」と返したら?これでもう即興のシーンは終わってしまう。でももし「動くな、銃を持っている」に対して、あなたが「私がクリスマスにあげた銃じゃない!この野郎!」と言えば、即興のシーンが幕を開ける。私の指が、クリスマスの銃であるという点に同意したから。 もちろん、実際の生活ではみんなが言うことに何でもかんでも同意することはないでしょう。でも、同意のルールは、パートナーが生み出したものに敬意を払い、オープンマインドな状態から始めること。まずYESから始めてみて、どこにたどり着くか見てみればいい。

これをブレインストームの状況に当てはめて考えてみましょう。例えば、AQでは3時のおやつの時間になると、メンバー数名が散歩とおやつ調達がてらコンビニに行く習慣があります。この習慣に目をつけて、この習慣をより便利にするコンビニアプリをつくったらどうかと誰かが提案した場合。コンビニまでの散歩時間に使えるデジタルサービスについてのブレインストームが始まりました。

即興の最初のルールはまず同意することです。ブレインストームの参加者に求められるのは、アイディアの可能性について同意すること。最初から「いや、コンビニアプリなんて誰もいらないよ。今のままでいいじゃない。」と言ってしまうと、そこでブレインストームが終了してしまいます。アイディアの発案者も、せっかく思いついたアイディアを共有したのに可能性を検討することもなく否定されて落ち込んだり、ブレインストームの場の雰囲気も悪くなります。仮に直感的にそういったアプリが必要ないと思った場合でも、そのシナリオを一度は受け止めて同意するところから始めましょう。

即興の2つ目のルールは、YESだけではなくYES, AND

相手が投げかけて来たシナリオに同意することで、即興が始まりました。次に大切な即興のルールは、同意の後に自分なりの価値を追加すること。これをTina Feyは、「YES, AND」と表現しています。

同意した後、あなた独自の価値を加えること。私が「ここって信じられないくらい暑いわね。」という言葉でシーンを始めたとして、あなたが「そうだね…」としか言わなかったらそこで行き止まり。でも、「ここって信じられないくらい暑いわね。」に対して、「だから言ったろ、犬の口の中なんてやめとけって。」と返せば、物語が先に進む。 私にとってYES, ANDは、ディスカッションに自分なりの価値を何かしら提供していることを意味する。

YES, ANDはブレインストームでも重要です。先ほどのコンビニアプリの例で説明すると、習慣である散歩の時間にデジタルサービスが入り込む可能性についてYESと同意しました。ブレインストームでも、その後に自分なりのアイディアを加えることが求められます。例えば、YES, AND こんな風にも使えるかもしれない、YES, AND 見た目はこんなだといいよね、YES, AND こんな名前だったら面白いかも、といった具合です。

YES, ANDのタイミングで即興とブレインストームが異なるのは、即興ではシーンがどんどん展開し後戻りはできないのに対して、ブレインストームでは一度最初のシナリオに舞い戻る点です。お散歩時間に使えるデジタルサービスというシナリオを踏まえて、じゃあこの機会に他にどんなことができるかな?と考えることでANDに続くアイディアが生まれます。

次のルールは、質問ではなく主張をすること

3つ目のルールの原文は、「Make Statements」です。これもまたブレインストームに当てはまります。Tinaはこのルールをこんな風に説明しています。

これは、「質問ばかりしないこと」をポジティブに言い換えたもの。即興のシーンで、私が「あなたは誰?私たちはどこにいるの?何をしてるの?その箱には何が入ってるの?」と言ったら、全てに答えるプレッシャーをあなたに与えることになる。問題が何であれ、その解決策の一部になること。じっと座って質問ばかりしたり、ただ問題点を指摘したりしないこと。 「私たちはどこにいるの?」と質問する代わりに、「ドラキュラ、私たちはスペインにいるのよ。」と発言する。まぁドラキュラというのはいまいちな始まりかもしれないけれど、これが最高のルールに繋がっている。

アイディアの発案者に対して質問ばかりして、相手が言葉につまる。特にデジタルサービスでよく起こりがちな状況です。「コンビニアプリはどうかな?」というアイディアに対して、「wifiがないのに上手くいくの?」「買い物して両手がふさがってるのにスマホを持てないんじゃない?」など質問攻めにする。これではブレインストームが成り立ちません。この状況は、ビジネス側、クリエイティブ、技術系の人が混ざり合った状況でよく見られます。みんな作り手でもあるため、それを実際に実現する方法を考えてしまうからです。でも、ブレインストームの目的は、アイディアに関するあらゆる可能性を模索すること。質問ではなく、主張することを心掛けましょう。

間違いなんてない、あるのはチャンスだけ

即興の最後のルールは、アイディアの発案者も気をつけたいポイントです。一言で言い換えると、「オープンであること」。Tinaは、これをハムスターの例を挙げて説明しています。

私は自転車に乗っている警官としてシーンを始めたつもりだったけれど、あなたが私のことを回転体をグルグル回るハムスターだと思っていたら。もうその時点で私はグルグル回るハムスター。わざわざ中断して、本当はね、自転車に乗ってる警官だったのよなんて訂正はしない。ハムスターという設定だって、そこから何かが始まるかもしれない。

即興には間違いなんて存在しない。あるのは美しくてハッピーなアクシデントだけ。

コンビニアプリの例、アイディアを提案する前に自分なりに、きっと人はこんな風に使うだろうというイメージがあるでしょう。でも、ブレインストームの場では、自分の出来上がったイメージを一度わきに置いて、他の人のアイディアにもオープンであること。「でも、それを使って彼氏とチャットすることもあるかもね」という提案に対して、「違うよ、こういう風に使うんだ。」と否定してしまうのではなくアイディアをまず受け止める。素晴らしいブレインストームは、判断をする場ではなく、次々と新しいチャンスを生む場なのです。

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