2010年、AQは瀬戸内国際芸術祭東京イラストレーターズ・ソサエティTokyo Art Beatのデジタルコミュニケーション戦略を次のステージへ上げるべくお手伝いをさせていただきました。2011年は、文化事業とともに新たな挑戦にかかる前の武者震いとして、カルチャーに関わる面白いウェブサイト事例を世界中からピックアップしていきます。Twitterもやっています。

手前味噌ですが!本記事は、2010年9月29日にオンラインマガジン「Snow Mag」に掲載されたRaphaël Mazoyer氏によるAQのChris Palmieriのインタビューを日本語訳(加筆・修正有り)したものです。

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公式サイトの目的と運用

2009年初頭からAQの皆さんが芸術祭のウェブサイト制作に乗り出し、ソーシャルメディアを賢く使ってその存在を広めてきたことが分かりました。開催期間中にもサイトは進化し続けたように思うのですが、芸術祭実行委員会の方がサイト上のコンテンツをメンテナンスしていたのですか?それともAQの方で、受け持ったのでしょうか?

更新作業は、芸術祭実行委員会の方で全て担当しました。Twitterアカウントと違って、サイトはあくまで公式なものですので、弊社がすべきことはフレキシブルなデザインと使い勝手の良い管理ツールの提供でした。写真の構成やブログのトピックなどについて提案することもたまにはありますけどね。

このサイトは閲覧しやすいですし、コンテンツの質も高いですね。クライアントがサイト上の管理ツールを使いこなせるよう、トレーニングを行いましたか?

ノウハウを伝授する時間は何度か設けました。でもトレーニングの大部分は、インターフェイス上で出来ます。というのも、管理画面のインターフェイスのカスタマイズにかなりの時間を費やしました。具体的には、各フィールドの上に、どういったタイプのコンテンツが入るのかを伝えるラベルやヒントを駆使したのです。

過去に、より広範なトレーニングをしたりマニュアルなどを作ったりしたこともありました。しかし、そういった情報はクライアントの受信箱に埋もれてしまったり、せっかく作成したマニュアルを誰にも引き継がずに担当者が辞めてしまったり、ということもありますので・・。

コンテンツ管理システムにヒントを入れることで一定レベルのクオリティを維持することができる、という点について、詳しく教えてください。

主にテキストの長さ、フォーマット、それにコンテキストについて、ヒントを記載しています。例えば、一つのアート作品について違う長さの紹介文がいくつかあり、それぞれがサイトの別のページで表示されるとしましょう。サイトのコンテンツ管理者は、テキストを編集する際に、インターフェイス上にそれらのテキストがどのページで使われるのかを書き込んであれば、それが実際ページ上でどのように見えるのか予想できますよね?また、コンテンツ制作者を数人に絞った件も品質の向上につながりました。


このウェブサイトの目的とは?どういったゴールがあるのでしょう?

まず、瀬戸内国際芸術祭の正式なリソースとして機能すること。このサイトを使うことで、来訪者は芸術祭のコンセプトを知り、参加する意欲が沸き、旅行の計画をたてる。このために多くの時間を費やしたのが、瀬戸内の地理的状況に基づいて情報を提供した点です。こういったことをウェブ上で実現するのは難しいことなのですが。各島の地理とインフラを理解して初めて、来訪者は一日のうちにどれだけ見て回れるかを現実的に計画できるようになる。そこでサイトが役立つわけです。

もう一つのゴールは、少し捉え難いものかもしれませんが、芸術祭の基盤となった美的感覚や価値といったものを反映しなければならない、ということです。これは、我々が実際島々で過ごした時間、そして主催者たちと交わした会話を通じて実現することができました。初めて「祭り」という言葉を耳にしたとき心に思い浮かんだイメージは、「包括的な」「身近な」「楽しい」「社交的な」といったものです。そして、瀬戸内にはそれら全てがあると言えます。ただ、主催者側はある特定の核となる人たち、つまり、洗練された文化的経験を求めて訪れる人たちをまず惹きつけなければならないと考えました。彼らを引き留められないとなると、他の来訪者が興味を抱くこともない。主催者はまた、人々が正しい心構えで瀬戸内を訪れるようにしなければならないとも考えました。探究心とお祝いムードも大切でけれども、敬意と思慮深さも持って欲しい、とね。

そういった考えというのは、どのようにサイト上に反映したのですか?

少しの制限を加えることで実現できました。ページのレイアウトはあくまでシンプルにし、関連性の低い詳細情報は避けました。バナーに至っても、限られた色彩で作るようにしました。また、こういった視覚的な部分では瀬戸内の島々そのものから多くのインスピレーションを得ています。初めてそこを訪れたときに持ったフィーリングを表現できる質感や写真などを織り交ぜました。

一つ目のゴールに結びつけて言うなら、サイト上の情報を完全なものにすることで、来訪者に敬意を表することができます。そして彼らからも、それが返ってくるのが理想ですよね。そして、どのタイミングで新しい情報をリリースしていくかを慎重に決めることで、芸術祭実行委員会の方は一年余りの運営過程で弊社の助けをほとんど借りることなく、そういった敬意に満ちた環境というものを維持することができたのです。例えば、ある情報の一部だけを掲載したいとしましょう。そこで弊社はデザインに微細な調整のみを施し、サイトのビジュアルがバランスよく保たれるようにする、といった具合です。

変わりゆくサイト

人々が実際瀬戸内を訪れるようになり、準備、作品募集、オープニング開催などを通して芸術祭が展開していくなかで、開催前にデザインされたインフォメーション・アーキテクチャは持ち堪えましたか?

ええ、ほとんどの部分は。最初からやり過ぎることがないよう気を付けていました。というのも、まだ生じていない問題の解決には手を出さないようにしていました。例えば、展示作品の詳細内容が分かる何ヶ月も前から、サイト上で作品をどのように紹介すべきかというアイディアは既にあったのですが、その時点ではいくつか鉛筆スケッチを書く程度にしておきました。実際に内容を知らされたとき、データの容量や形などに関する予想が一部はずれていたことが分かりました。ホッとしましたよ。作品情報のシステムを複雑なデザインや仕様で構築したりするなど、時間を無駄にせずに済みましたので。

最大の発見は、島々自体が全てのアート作品の主たる構成組織となっていたことです。美術館は通常、開催期間や作品のジャンル、メディアなどによって企画されており、それが集中的な売り上げに繋がります。でも瀬戸内では、そういう訳にはいかない。そこでサイトのインフォメーション・アーキテクチャにおいては、瀬戸内に来る際、島々自体が必ず旅のスタート地点になるような計画が立てられるようにしました。そうすることで、来訪者はほんの数日で好きなアーティストの作品を全て見て回ろうなんていう無謀な計画を立てずに済んだのです。

なるほど。島内の特定の場所や建物に作品を展示するという前提で作品が集められたこともあり、芸術祭は瀬戸内の地理的環境と強い繋がりがあると先程仰っていましたよね。このような状況の下では、来訪者は面白い感じ方・見識といったものを持ち得るのではないでしょうか。ユーザコンテンツに関してはどうでしょう?来訪者のブログ記事、彼らが撮った作品や瀬戸内海の素晴らしい風景写真などを掲載する場というのをサイト上に設けることは?

公式サイト上ではユーザコンテンツは制限するようにと、早い時期に事務局から言われていました。最初私はそれに反対でしたが、徐々に理解するようになりました。公式サイトは芸術祭に関する正確な情報を明確に伝える場です。アーティスト自身の作品に対する思いや考え、それに対する他者の意見などと、バランスや一貫性を持たせるのは大変なことです。別のツールやサービス上でそれが自然に取り上げられるであろうことは分かっていたため、サイト上でユーザの声を捉える必要性は感じませんでした。そこをきっちり分けて考えることに問題はない。二つを無理に一緒にしようとすることのほうに問題がある。ここでTwitterが両者間のソフト・リンクとして機能する訳です。来訪者のブログ記事やFlickrなどに載せられる写真は、今でも定期的にチェックするようにしています。

AQは東京を拠点として、この地域までは新幹線で4時間以上もかかりますよね。芸術祭が始まってから島々を訪れる時間はあったのですか?

はい。始まってすぐの二週間、女木島の民宿でいくつか部屋をお借りして、友人や家族も連れていきました。ここで敢えていうのも変かもしれませんが、本当に素晴らしいイベントですよ。どんな展覧会にも言えるように、他の作品よりも注目される作品というのはあったし、より印象に残る作品もありました。しかし、私が今まで行ったどのアート・イベントとも違い、瀬戸内はその場所自体の記憶というものを残してくれました。藁でいっぱいの屋根裏、かんかん照りの板張りの道を歩いたこと、曲がりくねった小道でつば広帽子を被った老婦人たちと交わした楽しい会話、そしてフェリーから眺めた、水平線に沿って刻々と色を変えていく島々の姿など。

聞き手:Raphaël Mazoyer。スポーツブランドASICSヨーロッパのデジタル・コミュニケーションズ・マネージャで、AQのクライアント。Chrisに招待され、女木島</a>に滞在した。petitbourgeois.comにブログを書くことも。